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ウサギ

「あ、もしもし?実は頼みごとがあってさあ」
友人のAから電話があった。私の家の倉庫を貸してくれ、と言う。
私の倉庫はほとんど使われていないので了承することにした。

Aの自宅にも古い蔵はあるのだが、先祖代々引き継がれてきた物に加え
収集癖があるAは、興味が湧くと色々な物をとことん集めてしまう。
とうとうその蔵にも置く場所がなくなったということで、我が家の倉庫に目をつけたという所らしい。

以前ちらっと見せてもらった時は、まだ結構余裕があったように思ったのだが
最近は一体何を集めていたのだろう。
少し興味が湧いた私は、Aに蔵の中を見せて欲しいと頼んでみた。
「ああ、いいよ」
電話越しに快諾の声が聞こえ、私は早速Aの家へ向かった。

 
 
「お前も物好きだよなあ」
そう言ってAが蔵の鍵を外す。
お前に言われるのは心外だ、などと思いながら扉を開けると
そこには何もなかった。

ところどころ草が生えている。
しばらく使われていないようだった。
窓から光が差し込んで、空気中の埃がキラキラと光を反射させて舞っている。
背後のAは何も言わず、ただ微笑んでいる。
私はなんだか恐ろしくなっt

(カサリ)

と音がしたような気がした。
ふと見ると、蔵の奥の方に白い小さな何かがある。
一匹のウサギだ。
ここで飼っているのだろうか?
私はそれを捕まえようと近寄った。
するりと私の足元を抜け、ウサギは入り口の方へ走っていった。
入り口のところにいるAが捕まえ抱き上げる。
おもむろに片足を握り、逆さにする。
そして私にもう片方の足を握らせ、思い切り引き裂いた、ような気がする。
返り血が派手に飛び散り、私は、

なんだか記憶があいまいで思い出せない。
思い出してはいけないような気がする。
私はその場にいてはいけない気がして、走って走って、遠くへ逃げた。
とにかく遠くへ走った。

それから後のことはもうよく分からない。
ウサギもAも跡形も無くなっていた。
Aの家も蔵も初めから存在していなかったように、その場所すら無くなっていた。
残っているのは私の家の倉庫と、そのとき着ていた血まみれの服だけだ。